VIPの皆で吉川三国志読もうぜ

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1 : 2024/03/13(水) 18:56:38.429 ID:CFHVADJTx
こうきんぞく

 後漢ごかんの建寧けんねい元年のころ。
 今から約千七百八十年ほど前のことである。
 一人の旅人があった。
 腰に、一剣を佩はいているほか、身なりはいたって見すぼらしいが、眉まゆは秀ひいで、唇くちは紅あかく、とりわけ聡明そうめいそうな眸ひとみや、豊ゆたかな頬をしていて、つねにどこかに微笑をふくみ、総じて賤いやしげな容子ようすがなかった。
 年の頃は二十四、五。
 草むらの中に、ぽつねんと坐って、膝をかかえこんでいた。
 悠久ゆうきゅうと水は行く――
 微風は爽さわやかに鬢びんをなでる。
 涼秋の八月だ。
 そしてそこは、黄河の畔ほとりの――黄土層の低い断きり岸ぎしであった。
「おーい」
 誰か河でよんだ。
「――そこの若い者ウ。なにを見ているんだい。いくら待っていても、そこは渡し舟の着く所じゃないぞ」
 小さな漁船から漁夫りょうしがいうのだった。
 青年は笑えくぼを送って、
「ありがとう」と、少し頭を下げた。
 漁船は、下流へ流れ去った。けれど青年は、同じ所に、同じ姿をしていた。膝をかかえて坐ったまま遠心的な眼をうごかさなかった。
「おい、おい、旅の者」
 こんどは、後ろを通った人間が呼びかけた。近村の百姓であろう。ひとりは鶏の足をつかんでさげ、ひとりは農具をかついでいた。
「――そんな所で、今朝からなにを待っているんだね。このごろは、黄巾賊こうきんぞくとかいう悪徒が立ち廻るからな。役人衆に怪あやしまれるぞよ」
 青年は、振りかえって、
「はい、どうも」
 おとなしい会釈えしゃくをかえした。
 けれどなお、腰を上げようとはしなかった。
 そして、幾千万年も、こうして流れているのかと思われる黄河の水を、飽あかずに眺めていた。
(――どうしてこの河の水は、こんなに黄色いのか?)
 汀みぎわの水を、仔細に見ると、それは水その物が黄色いのではなく、砥石といしを粉にくだいたような黄色い沙すなの微粒びりゅうが、水に混まじっていちめんにおどっているため、濁にごって見えるのであった。
「ああ……、この土も」
 青年は、大地の土を、一つかみ掌てに掬すくった。そして眼を――はるか西北の空へじっと放った。
 支那の大地を作ったのも、黄河の水を黄色くしたのも、みなこの沙の微粒である。そしてこの沙は中央亜細亜アジアの沙漠から吹いてきた物である。まだ人類の生活も始まらなかった何万年も前の大昔から――不断に吹き送られて、積り積った大地である。この広い黄土こうどと黄河の流れであった。
「わたしのご先祖も、この河を下くだって……」
 彼は、自分の体に今、脈うっている血液がどこからきたか、その遠い根元までを想像していた。
 支那を拓ひらいた漢民族も、その沙の来る亜細亜の山岳を越えてきた。そして黄河の流れに添いつつ次第にふえ、苗族びょうぞくという未開人を追って、農業を拓ひらき、産業を興おこし、ここに何千年の文化を植えてきたものだった。
「ご先祖さま、みていて下さいまし。いやこの劉備りゅうびを、鞭むち打って下さい。劉備はきっと、漢の民を興します。漢民族の血と平和を守ります」
 天へ向って誓うように、劉備青年は、空を拝していた。
 するとすぐ後ろへ、誰か突っ立って、彼の頭からどなった。
「うさんな奴やつだ。やいっ、汝は、黄巾賊こうきんぞくの仲間だろう?」

2 : 2024/03/13(水) 18:57:49.918 ID:CFHVADJTx

 劉備は、おどろいて、何者かと振りかえった。
 咎とがめた者は、
「どこから来たっ」と、彼の襟がみをもう用捨ようしゃなくつかんでいた。
「……?」
 見ると、役人であろう、胸に県の吏章りしょうをつけている。近頃は物騒ぶっそうな世の中なので、地方の小役人までが、平常でもみな武装していた。二人のうち一名は鉄弓てっきゅうを持ち、一名は半月槍はんげつそうをかかえていた。
「※(「さんずい+(冢-冖)」、第3水準1-86-80)県たくけんの者です」
 劉備青年が答えると、
「※(「さんずい+(冢-冖)」、第3水準1-86-80)県はどこか」と、たたみかけていう。
「はい、※(「さんずい+(冢-冖)」、第3水準1-86-80)県の楼桑村ろうそうそん(現在・京広線の北京―保定間)の生れで、今でも母と共に、楼桑村に住んでおります」
「商売は」
「蓆むしろを織おったり簾すだれをつくって、売っておりますが」
「なんだ、行商人ぎょうしょうにんか」
「そんなものです」
「だが……」
 と、役人は急にむさい物からのくように襟がみを放して、劉備の腰の剣をのぞきこんだ。
「この剣には、黄金の佩環はいかんに、琅※(「王+干」、第3水準1-87-83)ろうかんの緒珠おだまがさがっているのではないか、蓆売むしろうりには過ぎた刀だ。どこで盗んだ?」
「これだけは、父の遺物かたみで持っているのです。盗んだ物などではありません」
 素直ではあるが、凛りんとした答えである。役人は、劉備青年の眼を見ると、急に眼をそらして、
「しかしだな、こんなところに、半日も坐りこんで、いったい何を見ておるのか。怪しまれても仕方があるまい。――折も折、ゆうべもこの近村へ、黄巾賊の群れが襲よせて、掠奪りゃくだつを働いて逃げた所だ。――見るところ大人しそうだし、賊徒とは思われぬが、一応疑ってみねばならん」
「ごもっともです。……実は私が待っているのは、今日あたり江こうを下ってくると聞いている洛陽船らくようぶねでございます」
「ははあ、誰か身寄りの者でもそれへ便乗して来るのか」
「いいえ、茶を求めたいと思って。――待っているのです」
「茶を」
 役人は眼をみはった。
 彼らはまだ茶の味を知らなかった。茶という物は、瀕死ひんしの病人に与えるか、よほどな貴人でなければのまないからだった。それほど高価でもあり貴重に思われていた。
「誰にのませるのだ。重病人でもかかえているのか」
「病人ではございませんが、生来、私の母の大好物は茶でございます。貧乏なので、めったに買ってやることもできませんが、一両年稼かせいでためた小費こづかいもあるので、こんどの旅の土産には、買って戻ろうと考えたものですから」
「ふーむ。……それは感心なものだな。おれにも息子があるが、親に茶をのませてくれるどころか――あの通りだわえ」
 二人の役人は、顔を見合せてそういうと、もう劉備の疑いも解けた容子ようすで、何か語らいながら立ち去ってしまった。
 陽ひは西に傾きかけた。
 茜あかねざした夕空を、赤い黄河の流れに対したまま、劉備はまた、黙想していた。
 と、やがて、
「おお、船旗が見えた。洛陽船にちがいない」
 彼は初めて草むらを起った。そして眉まゆに手をかざしながら、上流のほうを眺めた。

3 : 2024/03/13(水) 18:59:06.630 ID:CFHVADJTx

 ゆるやかに、江を下ってくる船の影は、舂うすずく陽ひを負って黒く、徐々と眼の前に近づいてきた。ふつうの客船や貨船とちがい、洛陽船はひと目でわかる。無数の紅い龍舌旗りゅうぜつきを帆ばしらにひるがえし、船楼せんろうは五彩さいに塗ってあった。
「おうーい」
 劉備りゅうびは手を振った。
 しかし船は一個の彼に見向きもしなかった。
 おもむろに舵かじを曲げ、スルスルと帆をおろしながら、黄河の流れにまかせて、そこからずっと下流の岸へ着いた。
 百戸ばかりの水村すいそんがある。
 今日、洛陽船を待っていたのは、劉備ひとりではない。岸にはがやがやと沢山な人影がかたまっていた。驢ろをひいた仲買人の群れだの、鶏車チイチャーと呼ぶ手押し車に、土地の糸や綿を積んだ百姓だの、獣の肉や果物を籠かごに入れて待つ物売りだの――すでにそこには、洛陽船を迎えて、市いちが立とうとしていた。
 なにしろ、黄河の上流、洛陽の都には今、後漢ごかんの第十二代の帝王、霊帝れいていの居城きょじょうがあるし、珍しい物産や、文化の粋すいは、ほとんどそこでつくられ、そこから全支那へ行きわたるのである。
 幾月かに一度ずつ、文明の製品を積んだ洛陽船が、この地方へも下江かこうしてきた。そして沿岸の小都市、村、部落など、市の立つところに船を寄せて、交易こうえきした。
 ここでも。
 夕方にかけて、おそろしく騒がしくまたあわただしい取引が始まった。
 劉備は、そのやかましい人声と人影の中に立ちまじって、まごついていた。彼は、自分の求めようとしている茶が、仲買人の手にはいることを心配していた。一度、商人の手に移ると、莫大ばくだいな値になって、とても自分の貧しい嚢中のうちゅうでは購あがなえなくなるからであった。
 またたく間に、市の取引は終った。仲買人も百姓も物売りたちも、三々五々、夕闇へ散ってゆく。
 劉備は、船の商人らしい男を見かけてあわててそばへ寄って行った。
「茶を売って下さい、茶が欲しいんですが」
「え、茶だって?」
 洛陽らくようの商人は、鷹揚おうように彼を振向いた。
「あいにくと、お前さんに頒わけてやるような安茶は持たないよ。一葉ひとはいくらというような佳品しか船にはないよ」
「結構です。たくさんは要いりませんが」
「おまえ茶をのんだことがあるのかね。地方の衆が何か葉を煮てのんでいるが、あれは茶ではないよ」
「はい。その、ほんとの茶を頒わけていただきたいのです」
 彼の声は、懸命だった。
 茶がいかに貴重か、高価か、また地方にもまだない物かは、彼もよくわきまえていた。
 その種子たねは、遠い熱帯の異国からわずかにもたらされて、周しゅうの代にようやく宮廷の秘用にたしなまれ、漢帝の代々よよになっても、後宮こうきゅうの茶園に少し摘つまれる物と、民間のごく貴人の所有地にまれに栽培されたくらいなものだとも聞いている。
 また別な説には、一日に百草そうを嘗なめつつ人間に食物を教えた神農しんのうはたびたび毒草にあたったが、茶を得てからこれを噛むとたちまち毒をけしたので、以来、秘愛せられたとも伝えられている。
 いずれにしろ、劉備の身分でそれを求めることの無謀は、よく知っていた。
 ――だが、彼の懸命な面おももちと、真面目まじめに、欲するわけを話す態度を見ると、洛陽の商人も、やや心を動かされたとみえて、
「では少し頒けてあげてもよいが、お前さん、失礼だが、その代価をお持ちかね?」と訊いた。

25 : 2024/03/13(水) 19:35:47.869 ID:rCNx158m0
>>3
出ない
4 : 2024/03/13(水) 19:00:41.241 ID:fpZIyEJ60
吉川三国志の文章なの?ムズすぎて読めねえ横山三国志の原点だっけ
6 : 2024/03/13(水) 19:06:46.461 ID:CFHVADJTx
>>4
横山三国志の原作
横山三国志は吉川三国志を漫画化した作品だな
9 : 2024/03/13(水) 19:09:32.828 ID:ooZHCyEm0
>>6
横山の漫画が先でしょ
吉川とか聞いたことないし
14 : 2024/03/13(水) 19:13:38.881 ID:CFHVADJTx
>>9
『三国志』(さんごくし、連載中の原題:三國志)は、日本の大衆小説作家吉川英治による歴史小説。
新聞連載小説として、戦時中の1939年から1943年

『三国志』(さんごくし)は、横山光輝による日本の漫画。希望コミックスにも登場した。1971年から1987年まで、潮出版社『希望の友』『少年ワールド』『コミックトム』に月刊連載された。

吉川三国志の30年後に横山光輝が漫画化だな

5 : 2024/03/13(水) 19:01:40.868 ID:CFHVADJTx

「持っております」
 彼は、懐中ふところの革嚢かわぶくろを取出し、銀や砂金を取りまぜて、相手の両掌りょうてへ、惜しげもなくそれを皆あけた。
「ほ……」
 洛陽の商人は、掌ての上の目量めかたを計りながら、
「あるねえ。しかし、銀ぎんがあらかたじゃないか。これでは、よい茶はいくらも上げられないが」
「何ほどでも」
「そんなに欲しいのかい」
「母が眼を細めて、よろこぶ顔が見たいので――」
「お前さん、商売は?」
「蓆むしろや簾すだれを作っています」
「じゃあ、失礼だが、これだけの銀かねをためるにはたいへんだろ」
「二年かかりました。自分の食べたい物も、着たい物も、節約して」
「そう聞くと、断われないな。けれどとても、これだけの銀と替えたんじゃ引合わない。なにかほかにないかね」
「これも添えます」
 劉備りゅうびは、剣の緒おにさげている琅※(「王+干」、第3水準1-87-83)ろうかんの珠を解いて出した。洛陽の商人は琅※(「王+干」、第3水準1-87-83)などは珍しくない顔つきをして見ていたが、
「よろしい。おまえさんの孝心に免じて、茶と交易してやろう」
 と、やがて船室の中から、錫すずの小さい壺つぼを一つ持ってきて、劉備に与えた。
 黄河は暗くなりかけていた。西南方に、妖猫ようびょうの眼みたいな大きな星がまたたいていた。その星の光をよく見ていると虹色の暈かさがぼっとさしていた。
 ――世の中がいよいよ乱れる凶兆きょうちょうだ。
 と、近頃しきりと、世間の者が怖こわがっている星である。
「ありがとうございました」
 劉備青年は、錫の小壺を、両掌りょうてに持って、やがて岸を離れてゆく船の影を拝んでいた。もう瞼まぶたに、母のよろこぶ顔がちらちらする。
 しかし、ここから故郷の※(「さんずい+(冢-冖)」、第3水準1-86-80)県楼桑村たくけんろうそうそんまでは、百里の余もあった。幾夜の泊りを重ねなければ帰れないのである。
「今夜は寝て――」と、考えた。
 彼方かなたを見ると、水村すいそんの灯ひが二つ三つまたたいている。彼は村の木賃きちんへ眠った。
 すると夜半頃。
 木賃の亭主が、あわただしく起しにきた。眼をさますと、戸外おもては真っ赤だった。むうっと蒸されるような熱さの中にどこかでパチパチと、火の燃える物音もする。
「あっ、火事ですか」
「黄巾賊こうきんぞくがやってきたのですよ旦那、洛陽船らくようぶねと交易した仲買人たちが、今夜ここに泊ったのを狙ねらって――」
「えっ。……賊?」
「旦那も、交易した一人でしょう。奴らが、まっ先に狙うのは、今夜泊った仲買たちです。次にはわしらの番だが、はやく裏口からお逃げなさい」
 劉備はすぐ剣を佩はいた。
 裏口へ出てみるともう近所は焼けていた。家畜は、異様なうめきを放ち、女子どもは、焔の下に悲鳴をあげて逃げまどっていた。
 昼のように大地は明るい。
 見れば、夜叉やしゃのような人影が、矛ほこや槍やりや鉄杖てつじょうをふるって、逃げ散る旅人や村の者らを見あたり次第にそこここで殺戮さつりくしていた。――眼をおおうような地獄がえがかれているではないか。
 昼ならば眼にも見えよう。それらの悪鬼は皆、結髪けっぱつのうしろに、黄色の巾きれをかりているのだ。黄巾賊の名は、そこから起ったものである。本来は支那の――この国のもっとも尊い色であるはずの黄土の国色も、今は、善良な民の眼をふるえ上がらせる、悪鬼の象徴しるしになっていた。

7 : 2024/03/13(水) 19:07:08.920 ID:CFHVADJTx

 劉備りゅうびは怖れた。これは悪い者に出合ったと思った。
 二人の巨男おおおとこを見るに、結髪を黄色の布で包んでいるし、胴には鉄甲を鎧よろい、脚には獣皮の靴をはき、腰には大剣を横たえている。
 問うまでもなく、黄巾賊の仲間である。しかも、その頭分かしらぶんの者であることは、面構つらがまえや服装でもすぐ分った。
「大方だいほう。こいつを、どうするんですか」
 劉備の襟がみをつかんだのが、もう一人のほうに向って訊くと、孔子の木像を蹴とばした男は、
「離してもいい。逃げればすぐ叩っ斬ってしまうまでのことだ。おれが睨んでいる前からなんで逃げられるものか」と、いった。
 そして廟の前の玉石たまいしに腰を悠然とおろした。
 大方だいほう、中方ちゅうほう、小方しょうほうなどというのは、方師ほうし(術者じゅつしゃ・祈祷師)の称号で、その位階をも現わしていた。黄巾賊の仲間では、部将をさして、みなそう呼ぶのであった。
 けれど、総大将の張角ちょうかくのことは、そうよばない。張角と、その二人の弟に向ってだけは、特に、
 大賢良師だいけんりょうし、張角
 天公将軍てんこうしょうぐん、張梁ちょうりょう
 地公将軍ちこうしょうぐん、張宝ちょうほう
 というように尊称していた。
 その下に、大方、中方などとよぶ部将をもって組織しているのであった――で今、劉備の前に腰かけている男は、張角の配下の馬元義ばげんぎという黄巾賊の一頭目であった。
「おい、甘洪かんこう」と、馬元義は手下の甘洪が、まだ危ぶんでいる様子に、顎あごで大きくいった。
「そいつを、もっと前へ引きずってこい――そうだ俺の前へ」
 劉備は、襟がみを持たれたまま、馬元義の足もとへ引き据えられた。
「やい、百姓」
 馬ばはねめつけて、
「汝われは今、孔子廟へ向って、大それた誓願せいがんを立てていたが、一体うぬは、正気か狂人か」
「はい」
「はいではすまねえ。黄魔鬼畜こうまきちくを討ってどうとかぬかしていたが、黄魔とは、誰のことだ、鬼畜とは、何をさしていったのだ」
「べつに意味はありません」
「意味のないことを独りでいうたわけがあるか」
「あまり山道が淋しいので、怖ろしさをまぎらすために出たらめに、声を放って歩いてきたものですから」
「相違ないか」
「はい」
「――で、何処まで行くのだ。この真夜中に」
「※(「さんずい+(冢-冖)」、第3水準1-86-80)県たくけんまで帰ります」
「じゃあまだ道は遠いな。俺たちも夜が明けたら、北のほうの町まで行くが、てめえのために眼をさましてしまった。もう二度寝もできまい。ちょうど荷物があって困っていた所だから、俺の荷をかついで、供をしてこい――おい、甘洪かんこう」
「へい」
「荷物はこいつにかつがせて、汝われは俺の半月槍を持て」
「もう出かけるんですか」
「峠を降りると夜が明けるだろう。その間に奴らも、今夜の仕事をすまして、後から追いついてくるにちげえねえ」
「では、歩き歩き、通ったしるしを残して行きましょう」と、甘洪は、廟びょうの壁に何か書き残したが、半里も歩くとまた、道ばたの木の枝に、黄色の巾きれを結びつけて行く――
 大方だいほうの馬元義ばげんぎは、悠々と、驢ろに乗って先へ進んで行くのであった。

8 : 2024/03/13(水) 19:08:54.373 ID:CFHVADJTx
流行はやる童歌どうか

 驢は、北へ向いて歩いた。
 鞍上の馬元義は、ときどき南を振り向いて、
「奴らはまだ追いついてこないがどうしたのだろう」と、つぶやいた。
 彼の半月槍をかついで、驢の後からついてゆく手下の甘洪かんこうは、
「どこかで道を取っ違えたのかも知れませんぜ。いずれ冀州きしゅう(河北省保定の南方)へ行けば落ち合いましょうが」と、いった。
 いずれ賊の仲間のことをいっているのであろう――と劉備りゅうびは察した。とすれば、自分がのがれてきた黄河の水村を襲ったあの連中を待っているのかも知れない、と思った。
(何しろ、従順をよそおっているに如しくはない。そのうちには、逃げる機会があるだろう)
 劉備は、賊の荷物を負って、黙々と、驢と半月槍のあいだに挟まれながら歩いた。丘陵と河と平原ばかりの道を、四日も歩きつづけた。
 幸い雨のない日が続いた。十方碧落へきらく、一朶だの雲もない秋だった。黍きびのひょろ長い穂に、時折、驢も人の背丈せたけもつつまれる。
「ああ――」
 旅に倦うんで、馬元義は大きなあくびを見せたりした。甘も気けだるそうに居眠り半分、足だけを動かしていた。
 そんな時、劉備はふと、
 ――今だっ。
 という衝動にかられて、幾度か剣に手をやろうとしたが、もし仕損じたらと、母を想い、身の大望を考えて、じっと辛抱していた。
「おう、甘洪」
「へえ」
「飯が食えるぞ。冷たい水にありつけるぞ――見ろ、むこうに寺があら」
「寺が」
 黍の間から伸び上がって、
「ありがてえ。大方だいほう、きっと酒もありますぜ。坊主は酒が好きですからね」
 夜は冷え渡るが、昼間は焦げつくばかりな炎熱であった。――水と聞くと、劉備も思わず伸び上がった。
 低い丘陵が彼方に見える。
 丘陵に抱かれている一叢ひとむらの木立と沼があった。沼には紅白の蓮花はちすがいっぱい咲いていた。
 そこの石橋を渡って、荒れはてた寺門の前で、馬元義は驢をおりた。門の扉は、一枚はこわれ、一枚は形だけ残っていた。それに黄色の紙が貼ってあって、次のような文が書いてあった。
蒼天已死そうてんすでにしす
黄夫当レ立こうふまさにたつべし
歳在二甲子一としこうしにありて
天下大吉てんかだいきち
  ○
大賢良師張角だいけんりょうしちょうかく
「大方ご覧なさい。ここにもわが党の盟符めいふが貼ってありまさ。この寺も黄巾の仲間に入っている奴ですぜ」
「誰かいるか」
「ところが、いくら呼んでも誰も出てきませんが」
「もう一度、どなってみろ」
「おうい、誰かいねえのか」
 ――薄暗い堂の中を、どなりながら覗いてみた。何もない堂の真ん中に、曲※(「碌のつくり」、第3水準1-84-27)きょくろくに腰かけている骨と皮ばかりな老僧がいた。しかし老僧は眠っているのか、死んでいるのか、木乃伊ミイラのように、空虚うつろな眼を梁うつばりへ向けたまま、寂然じゃくねんと――答えもしない。

10 : 2024/03/13(水) 19:10:47.151 ID:dCBv1IHx0
ホモというイメージだわ
気持ち悪いんだよ
11 : 2024/03/13(水) 19:10:47.278 ID:rw04eYzH0
ルビ消せよ
17 : 2024/03/13(水) 19:17:55.549 ID:CFHVADJTx
>>11
ルビ消しツールなんかあるんだね
これは読みやすい
12 : 2024/03/13(水) 19:11:18.641 ID:SA1bgzJZ0
女子がバナー持ってトンズラして
23 : 2024/03/13(水) 19:32:40.479 ID:aeduc4Eh0
>>12
犯罪者の漫画家少ないから安心して正解
13 : 2024/03/13(水) 19:11:58.447 ID:CFHVADJTx

「やい、老いぼれ」
 甘洪かんこうは、半月槍の柄で、老僧の脛すねをなぐった。
 老僧は、やっとにぶい眼をあいて、眼の前にいる甘と、馬と、劉りゅう青年を見まわした。
「食物があるだろう。おれたちはここで腹支度をするのだ、はやく支度をしろ」
「……ない」
 老僧は、蝋ろうのような青白い顔を、力なく振った。
「ない? ――これだけの寺に食物がないはずはねえ。俺たちをなんだと思う。頭髪あたまの黄巾きれを見ろ。大賢良師張角様の方将ほうしょう、馬元義というものだ。家探しして、もし食物があったら、素ッ首をはね落すがいいか」
「……どうぞ」
 老僧は、うなずいた。
 馬は甘をかえりみて、
「ほんとにないのかもしれねえな。あまり落着いていやがる」
 すると老僧は、曲※(「碌のつくり」、第3水準1-84-27)きょくろくにかけていた枯木のような肘ひじを上げて、後ろの祭壇や、壁や四方をいちいちさして、
「ない! ない! ない! ……仏陀の像さえない! 一物もここにはないっ」と、いった。
 泣くがような声である。
 そしてにぶい眸ひとみに、怨みの光をこめてまたいった。
「みんな、お前方の仲間が持って行ってしまったのだ。蝗いなごの群れが通ったあとの田みたいだよここは……」
「でも、何かあるだろう。何か喰える物が」
「ない」
「じゃあ、冷たい水でも汲んでこい」
「井戸には、毒が投げこんである。飲めば死ぬ」
「誰がそんなことをした」
「それも、黄巾こうきんをつけたお前方の仲間だ。前の地頭じとうと戦った時、残党が隠れぬようにと、みな毒を投げこんで行った」
「しからば、泉があるだろう。あんな美麗な蓮花はちすが咲いている池があるのだから、どこぞに、冷水が湧わいているにちがいない」
「――あの蓮花が、なんで美しかろう。わしの眼には、紅蓮ぐれんも白蓮びゃくれんも、無数の民の幽魂ゆうこんに見えてならない。一花、一花呪のろい、恨み、哭なき戦おののきふるえているような」
「こいつめが、妙な世まい言ごとを……」
「嘘と思うなら池をのぞいてみるがよい。紅蓮の下にも、白蓮の根元にも、腐爛ふらんした人間の死骸がいっぱいだよ。お前方の仲間に殺された善良な農民や女子供の死骸だの、また、黄巾の党に入らないので、縊くびり殺された地頭やら、その夫人おくさんやら、戦って死んだ役人衆やら――何百という死骸がのう」
「あたり前だ。大賢良師張角様に反そむくやつらは、みな天罰でそうなるのだ」
「…………」
「いや。よけいなことは、どうでもいい。食べ物もなく水もなく、一体それでは、てめえは何を喰って生きているのか」
「わしの喰ってる物なら」と、老僧は、自分の沓くつのまわりを指さした。
「……そこらにある」
 馬元義は、何気なく、床を見まわした。根を噛かんだ生草なまぐさだの、虫の足だの、鼠の骨などが散らかっていた。
「こいつは参った。ご饗応きょうおうはおあずけとしておこう。おい劉りゅう、甘洪かんこう、行こうぜ」
 と出て行きかけた。
 すると、その時はじめて、賊の供をしている劉備の存在に気づいた老僧は、穴のあくほど、劉青年の顔を見つめていたが、突然、
「あっ?」と、打たれたような愕おどろきを声に放って、曲※(「碌のつくり」、第3水準1-84-27)から突っ立った。

15 : 2024/03/13(水) 19:15:54.509 ID:OEZgzypI0
つい半年前までは「評価する」が最も多かったのも忘れてるだろうし
運転手の知人
夜勤もあってトラックも同様
22 : 2024/03/13(水) 19:31:56.782 ID:zDWon9ck0
>>15
クマはアラサーやんけ
また同じことをみんなの?
その位のチームが8時間超えなきゃ残業時間をやり過ごす
16 : 2024/03/13(水) 19:17:27.286 ID:CFHVADJTx

 老僧の落ちくぼんでいる眼は大きく驚異にみはったまま劉備の面をじいと見すえたきり、眼ばたきもしなかった。
 やがて、独りで、うーむと唸っていたが、なに思ったか、
「あ、あ! あなただっ」
 膝を折って、床に坐り、あたかも現世の文殊弥勒でも見たように、何度も礼拝して止まなかった。
 劉備は、迷惑がって、
「老僧、何をなさいます」と、手を取った。
 老僧は、彼の手にふれると、なおさら、随喜の涙を流さぬばかりふるえて、額に押しいただきながら、
「青年。――わしは長いこと待っていたよ。まさしく、わしの待っていたのはあなただ。――あなたこそ魔魅跳梁を退けて、暗黒の国に楽土を創て、乱麻の世に道を示し、塗炭の底から大民を救ってくれるお方にちがいない」と、いった。
「とんでもない。私は※(「さんずい+(冢-冖)」、第3水準1-86-80)県から迷ってきた貧しい蓆売りです。老僧はなしてください」
「いいや、あなたの人相骨がらに現われておるよ。青年、聞かしておくれ。あなたの祖先は、帝系の流れか、王侯の血をひいていたろう」
「ちがう」
 劉備は、首を振って、「父も、祖父も、楼桑村の百姓でした」
「もっと先は……」
「わかりません」
「分らなければ、わしの言を信じたがよい。あなたが佩いている剣は誰にもらったのか」
「亡父の遺物」
「もっと前から、家におありじゃったろう。古びて見る面影もないがそれは凡人の佩く剣ではない。琅※(「王+干」、第3水準1-87-83)の珠がついていたはず、戛玉とよぶ珠だよ。剣帯に革か錦の腰帛もついていたのだよ。王者の佩とそれを呼ぶ。何しろ、刀身も無双な名剣にまちがいない。試してみたことがおありかの」
「……?」
 堂の外へ先に出たが、後から劉備が出てこないので、足を止めていた賊の馬元義と甘洪は、老僧のぶつぶついっていることばを、聞きすましながら振向いていた。が、――しびれをきらして、
「やいっ劉。いつまで何をしているんだ。荷物を持って早くこいっ」と、どなった。
 老僧は、まだ何か、いいつづけていたが、馬の大声に恟んで、急に口をつぐんだ。劉備はその機に、堂の外へ出てきた。
 驢をつないでいる以前の門を踏みだすと、馬元義は、驢の手綱をときかける手下の甘を止めて、
「劉、そこへ掛けろ」と、木の根を指さし、自分も石段に腰かけて、大きく構えた。
「今、聞いていると、てめえは行く末、偉い者になる人相を備えているそうだな。まさか、王侯や将軍になれっこはあるめえが、俺も実は、てめえは見込みのある野郎だと見ているんだ――どうだ、俺の部下になって、黄巾党の仲間へ加盟しないか」
「はい。有難うございますが」と、劉備はあくまで、素直をよそおって、
「私には、故郷に一人の母がいますので、せっかくですが、お仲間には入れません」
「おふくろなぞは、あってもいいじゃねえか。喰い扶持さえ送ってやれば」
「けれど、こうして、私が旅に出ている間も、痩せるほど子の心配ばかりしている、至って子煩悩な母ですから」
「そりゃそうだろう。貧乏ばかりさせておくからだ。黄巾党に入って、腹さえふくらせておけば、なに、嬰児じゃあるめえし、子の心配などしているものか」

18 : 2024/03/13(水) 19:18:51.855 ID:CFHVADJTx

 馬元義は、功名に燃えやすい青年の心をそそるように、それから黄巾党の勢力やら、世の中の将来やらを、談義しはじめた。
「狭い目で見ている奴は、俺たちが良民いじめばかりしていると思っているが、俺たちの総大将張角様を、神の如く崇めている地方だってかなりある――」
 と、前提して、まず、黄巾党の起りから説きだすのだった。
 今から十年ほど前。
 鉅鹿郡(河北省)の人で、張角という無名の士があった。
 張角はしかし稀世の秀才と、郷土でいわれていた。その張角が、あるとき、山中へ薬をとりに入って、道で異相の道士に出会った。道士は手に藜の杖をもち、
(お前を待っていること久しかった)と、さしまねくので、ついて行ってみると、白雲の裡の洞窟へ誘い、張角に三巻の書物を授けて、(これは、太平要術という書物である。この書をよく体して、天下の塗炭を救い、道を興し、善を施すがよい。もし自身の我意栄耀に酔うて、悪心を起す時は、天罰たちどころに身を亡ぼすであろう)と、いった。
 張角は、再拝して、翁の名を問うと、
(我は南華老仙なり)と答え、姿は、一颯の白雲となって飛去ってしまったというのである。
 張角は、そのことを、山を降りてから、里の人々へ自分から話した。
 正直な、里の人々は、(わしらの郷土の秀才に、神仙が宿った)と真にうけて、たちまち張角を、救世の方師と崇めて、触れまわった。
 張角は、門を閉ざし、道衣を着て、潔斎をし、常に南華老仙の書を帯びて、昼夜行いすましていたが、或る年悪疫が流行して、村にも毎日おびただしい死人が出たので、
(今は、神が我をして、出でよと命じ給う日である)
 と、おごそかに、草門を開いて、病人を救いに出たが、その時もう、彼の門前には、五百人の者が、弟子にしてくれといって、蝟集してぬかずいていたということである。
 五百人の弟子は、彼の命に依って、金仙丹、銀仙丹、赤神丹の秘薬をたずさえ、おのおの、悪疫の地を視て廻った。そして、張角方師の功徳を語り聞かせ、男子には金仙丹を、女子には銀仙丹を、幼児には赤神丹を与えると、神薬のききめはいちじるしく、皆、数日を出でずして癒った。
 それでも、癒らぬ者は、張角自身が行って、大喝の呪を唱え、病魔を家から追うと称して、符水の法を施した。それで起きない病人はほとんどなかった。
 体の病人ばかりでなく、次には心に病のある者も集まってきて、張角の前に懺悔した。貧者も来た。富者も来た。美人も来た。力士や武術者も来た。それらの人々は皆、張角の帷幕に参じたり、厨房で働いたり、彼のそば近く侍したり、また多くの弟子の中に交じって、弟子となったことを誇ったりした。
 たちまち、諸州にわたって、彼の勢力はひろまった。
 張角は、その弟子たちを、三十六の方を立たせ、階級を作り、大小に分かち、頭立つ者には軍帥の称を許し、また方帥の称呼を授けた。
 大方を行う者、一万余人。小方を行う者六、七千人。その部の内に、部将あり方兵あり、そして張角の兄弟、張梁、張宝のふたりを、天公将軍、地公将軍とよばせて、最大の権威をにぎらせ、自身はその上に君臨して、大賢良師張角と、称えていた。
 これがそもそもの、黄巾党の起りだとある。初め張角が、常に、結髪を黄色い巾でつつんでいたので、その風が全軍にひろまって、いつか党員の徽章となったものである。

19 : 2024/03/13(水) 19:21:33.775 ID:CFHVADJTx

 また、黄巾軍の徒党は、全軍の旗もすべて黄色を用い、その大旆には、
蒼天已死
黄夫当レ立
歳在二甲子一
天下大吉
 という宣文を書き、党の楽謡部は、その宣文に、童歌風のやさしい作曲をつけて、党兵に唄わせ、部落や村々の地方から郡、県、市、都へと熱病のようにうたい流行らせた。
大賢良師張角!
大賢良師張角!
 今は、三歳の児童も、その名を知らぬはなく、
(――蒼天スデニ死ス。黄夫マサニ立ツベシ)
 と唄った後では、張角の名を囃して、今にも、天上の楽園が地上に実現するような感を民衆に抱かせた。
 けれど、黄巾党が跋扈すればするほど、楽土はおろか、一日の安穏も土民の中にはなかった。
 張角は自己の勢力に服従してくる愚民どもへは、
(太平を楽しめ)と、逸楽を許し、
(わが世を謳歌せよ)と、暗に掠奪を奨励した。
 その代りに、逆らう者は、仮借なく罰し、人間を殺し、財宝を掠めとることが、党の日課だった。
 地頭や地方の官吏も、防ぎようはなく、中央の洛陽の王城へ、急を告げることもひんぴんであったが、現下、漢帝の宮中は、頽廃と内争で乱脈をきわめていて、地方へ兵をやるどころではなかった。
 天下一統の大業を完成して、後漢の代を興した光武帝から、今は二百余年を経、宮府の内外にはまた、ようやく腐爛と崩壊の兆があらわれてきた。
 十一代の帝、桓帝が逝いて、十二代の帝位についた霊帝は、まだ十二、三歳の幼少であるし、輔佐の重臣は、幼帝をあざむき合い、朝綱を猥りにし、佞智の者が勢いを得て、真実のある人材は、みな野に追われてしまうという状態であった。
 心ある者は、ひそかに、
(どうなり行く世か?)と、憂えているところへ、地方に蜂起した黄巾賊の口々から、
 ――蒼天已死
 の童歌が流行ってきて、後漢の末世を暗示する声は、洛陽の城下にまで、満ちていた。
 そうした折にまた、こんなこともひどく人心を不安にさせた。
 ある年。
 幼帝が温徳殿に出御なされると、にわかに、狂風がふいて、長二丈余の青蛇が、梁から帝の椅子のそばに落ちてきた。帝はきゃっと、床に仆れて気を失われてしまった。殿中の騒動はいうまでもなく、弓箭や鳳尾槍をもった禁門の武士がかけつけて、青蛇を刺止めんとしたところが、突如、雹まじりの大風が王城をゆるがして、青蛇は雲となって飛び、その日から三日三夜、大雨は底のぬけるほど降りつづいて、洛陽の民家の浸水くもの二万戸、崩壊したもの千何百戸、溺死怪我人算なし――というような大災害を生じた。
 また、つい近年には。
 赤色の彗星が現れたり、風もない真昼、黒旋風が突然ふいて、王城の屋根望楼を飛ばしたり、五原山の山つなみに、部落数十が、一夜に地底へ埋没してしまったり――凶兆ばかり年ごとに起った。

20 : 2024/03/13(水) 19:23:51.887 ID:2+9CBQH40
パソコンでサロンやばそう
そんな事故になったくらいでまだ使える家具を捨てるなんて風潮もなかったわよ!
21 : 2024/03/13(水) 19:27:21.947 ID:kBjrCIZ70
きつい
誤爆いたしました、大変申し訳ございません
裏では
24 : 2024/03/13(水) 19:33:05.335 ID:CFHVADJTx

 そんな凶兆のあるたびに、黄巾賊の「蒼天スデニ死ス――」の歌は、盲目的にうたわれて行き、賊党に加盟して、掠奪、横行、殺戮――の自由にできる「我党の太平を楽しめ」とする者が、ふえるばかりだった。
 思想の悪化、組織の混乱、道徳の頽廃。――これをどうしようもない後漢の末期だった。
 燎原の火とばかり、魔の手をひろげて行った黄巾賊の勢力は、今では青州、幽州、徐州、冀州、荊州、揚州、※(「亠/兌」、第3水準1-14-50)州、予州等の諸地方に及んでいた。
 州の諸侯をはじめ、郡県市部の長や官吏は、逃げ散るもあり、降って賊となるもあり、屍を積んで、焚き殺された者も数知れなかった。
 富豪は皆、財を捧げて、生命を乞い、寺院や民家は戸ごとに、大賢良師張角――と書いた例の黄符を門に貼って、絶対服従を誓い、まるで鬼神をまつるように、崇め恐れた。そうした現状にあった。
 さて。……
 長々と、そうした現状や、黄巾党の勃興などを、自慢そうに語りきたって、
「劉――」と、大方馬元義は、腰かけている石段から、寺の門を、顎でさした。
「そこでも、黄色い貼紙を見たろう。書いてある文句も読んだろう。この地方もずっと、俺たち黄巾党の勢力範囲なのだ」
「…………」
 劉備は、終始黙然と聞いているのみだった。
「いや、この地方や、十州や二十州はおろかなこと、今に天下は黄巾党のものになる。後漢の代は亡び、次の新しい代になる」
 劉備は、そこで初めて、こう訊ねた。
「では、張角良師は、後漢を亡ぼした後で、自分が帝位につく肚なんですか」
「いやいや。張角良師には、そんなお考えはない」
「では、誰が、次の帝王になるのでしょう」
「それはいえない。……だが劉備、てめえが俺の部下になると約束するなら聞かせてやるが」
「なりましょう」
「きっとか」
「母が許せばです」
「――では打明けてやるが、帝王の問題は、今の漢帝を亡ぼしてから後の重大な評議になるんだ。匈奴(蒙古族)のほうとも相談しなければならないから」
「へえ? ……なぜです。どうして支那の帝王を決めるのに、昔から秦や趙や燕などの国境を侵して、われわれ漢民族を脅かしてきた異国の匈奴などと相談する必要があるのですか」
「それは大いにあるさ」と、馬は当然のように――
「いくら俺たちが暴れ廻ろうたって、俺たちの背後から、軍費や兵器をどしどし廻してくれる黒幕がなくっちゃ、こんな短い年月に、後漢の天下を攪乱することはできまいじゃねえか」
「えっ。では黄巾賊のうしろには、異国の匈奴がついているわけですか」
「だから絶対に、俺たちは敗けるはずはないさ。どうだ劉、俺がすすめるのは、貴様の出世のためだ。部下になれ、すぐここで、黄巾賊に加盟せぬか」
「結構なお話です。母も聞いたら歓びましょう。……けれど、親子の中にも礼儀ですから、一応、母にも告げた上でご返辞を……」
 云いかけているのに、馬元義は不意に起ち上がって、
「やっ、来たな」と、彼方の平原へ向って、眉に手をかざした。

26 : 2024/03/13(水) 19:37:20.321 ID:4Nc/rMuw0
吉川文学は面白いよね
一通りは読んでる
29 : 2024/03/13(水) 19:40:50.098 ID:CFHVADJTx
>>26
三国志宮本武蔵水滸伝と読んだな
時代考証が素晴らしい
27 : 2024/03/13(水) 19:40:01.725 ID:7Bmv18HE0
>>1
信者はこぞってガーシーさんのアカウントにて)
こマ?!
あの相関図が事故との関連を調べていくよな!
TOPIX下げてるのにね
28 : 2024/03/13(水) 19:40:13.427 ID:CFHVADJTx
白芙蓉

 それは約五十名ほどの賊の小隊であった。中に驢に乗っている二、三の賊将が鉄鞭を指して、何かいっていたように見えたが、やがて、馬元義の姿を見かけたか、寺のほうへ向って、一散に近づいてきた。
「やあ、李朱氾。遅かったじゃないか」
 こなたの馬元義も、石段から伸び上がっていうと、
「おう大方、これにいたか」と、李と呼ばれた男も、そのほかの仲間も、つづいて驢の鞍から降りながら、
「峠の孔子廟で待っているというから、あれへ行った所、姿が見えないので、俺たちこそ、大まごつきだ。遅いどころじゃない」と、汗をふきふき、かえって馬元義に向って、不平を並べたが、同類の冗談半分とみえて、責められた馬のほうも、げらげら笑うのみだった。
「ところで、ゆうべの収穫はどうだな。洛陽船を的に、だいぶ諸方の商人が泊っていた筈だが」
「大していう程の収穫もなかったが、一村焼き払っただけの物はあった。その財物は皆、荷駄にして、例の通りわれわれの営倉へ送っておいたが」
「近頃は人民どもも、金は埋けて隠しておく方法をおぼえたり、商人なども、隊伍を組んで、俺たちが襲うまえに、うまく逃げ散ってしまうので、だんだん以前のようにうまいわけには行かなくなったなあ」
「ウム、そういえば、先夜も一人惜しいやつを取逃がしたよ」
「惜しい奴? ――それは何か高価な財宝でも持っていたのか」
「なあに、砂金や宝石じゃないが、洛陽船から、茶を交易した男があるんだ。知っての通り、盟主張角様には、茶ときては、眼のない好物。これはぜひ掠めとって、大賢良師へご献納もうそうと、そいつの泊った旅籠も目ぼしをつけておき、その近所から焼き払って踏みこんだところ、いつの間にか、逃げ失せてしまって、とうとう見つからない。――こいつあ近頃の失策だったよ」
 賊の李朱氾は、劉備のすぐそばで、それを大声で話しているのだった。
 劉備は、驚いた。
 そして思わず、懐中に秘していた錫の小さい茶壺をそっとさわってみた。
 すると、馬元義は、
「ふーむ」と、うめきながら、改めて後ろにいる劉青年を振向いてから、さらに、李へ向って、
「それは、幾歳ぐらいな男か」
「そうさな。俺も見たわけでないが、嗅ぎつけた部下のはなしによると、まだ若いみすぼらしい風態の男だが、どこか凛然としているから、油断のならない人間かも知れないといっていたが」
「じゃあ、この男ではないのか」
 馬元義は、すぐ傍らにいる劉備を指さして、いった。
「え?」
 李は、意外な顔をしたが、馬元義から仔細を聞くとにわかに怪しみ疑って、
「そいつかもしれない。――おういっ、丁峰、丁峰」
 と、池畔に屯させてある部下の群れへ向ってどなった。
 手下の丁峰は、呼ばれて、屯の中から馳けてきた。李は、黄河で茶を交易した若者は、この男ではないかと、劉の顔を指さして、質問した。
 丁は、劉青年を見ると、惑うこともなくすぐ答えた。
「あ。この男です。この若い男に違いありません」
「よし」
 李は、そういって、丁峰を退けると、馬元義と共に、いきなり劉備の両手を左右からねじあげた。

30 : 2024/03/13(水) 19:41:59.852 ID:4HWFnUvs0
赤字補填は出来ないのに情報殆どないからUSだけ聴くようなった瞬間に含むシステムなんだよこの会社にあたえた
あれじゃ彼女とかできるならコロナのせいに出来るやつ尊敬するわ。
いやどう見てないよね…
32 : 2024/03/13(水) 19:42:32.504 ID:4BhAJJox0
ブレーキ痕もなく上がっているクソIPO銘柄が中間配当なかったのが異様な雰囲気はするんだが。
土曜までで

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